ルポルタージュです。「アメリカン・プリズン (潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス)」シェーン・バウワー著。すげー面白かった。
潜入取材
アメリカの民間刑務所に刑務官として、4ヶ月間もの間、働いたルポライター。バウワー。発表された記事は、その雑誌の歴史を塗り替える部数を記録し、そのまま書籍刊行となった。
もんのすごく面白いよ。
刑務所ビジネス
このビジネスと結びつけちゃいけない所がしっかり結びついているのがなんともアメリカらしい。戦争ビジネスとかね。
この民間刑務所ってのが厄介で。そのそも「民間」だぜ。そりゃ、色々問題が出てくるよね。
「僕のクラス~教育ビジネスの現場から~」という芝居を書いて上演したことがある。少子化で学校ビジネスをなんとか成立させるために、良い点を取ると女性教師が脱ぐとか転校すると乗り換えキャンペーンで中間テストが一律20点アップになる、とか、むちゃくちゃなものを作った記憶。
でも、勿論それは、「んなあほな」の空想の世界なのだけれど、アメリカだとそうはいかない。
民間刑務所なので「稼がないとならない」。
となると「服役する者」は雇用者のようなものだ。
服役囚に働かせる
そして、アメリカなので、奴隷制度からの遷移が地続きというのも驚きだ。奴隷制がなくなったので、「さあ、どうする」ってんで、
じゃあ服役囚にやって貰おうよ!
とばかりに、いろんなキッツイ仕事を刑務所が請け負って、囚人にやらせて、殺して平気な顔。なぜなら、囚人だからね。
病気で死にました。と言えばそれでいい。そんな空気。恐ろしい。そして、またハッキリと黒人差別も出てくる。
なんとも酷い話。
手に汗握る
その潜入取材の4ヶ月の間に、ものすごい事が沢山起こる。映画のようなフィクショナルな。
脱走する。脱走したけど、その見張りは撤廃したばかりだったので、放置。とか。
囚人の自殺。とか。暴力事件やトラブルとか。
アクション小説として見てもいいぐらいいろんな事が起きる。
人間関係
そして、囚人は、刑務官が「薄給」なのを知っているので、賄賂で手懐けようとする。解った上で手懐けられていく刑務官たち。その「どっちが刑務官か解らない」状態も凄いし、それを横行させている上層部の問題も大きい。
そして、その「監獄の主」のような男に舐められないで頑張る刑務官の姿。嗚呼。
更生させようとは思ってない
間違いなく、更生させて出所させるということを第一義に考えていない。それは読めばすぐに解る。
そもそも、その刑務官になる為の「面接」の段階から、いちいち面白い。
そして、給料が時給9ドルって凄くない? ファストフードと同じ。
なのに、囚人を176人を一人で担当しなければならない。
なのに、銃も麻酔銃も、持たしてもらえない。そんなの怖いなんてもんじゃないでしょう。
自分を見つめながらオナニーする囚人。女性刑務官とねんごろになる囚人。もはやハチャメチャな世界だけど、これは
民間
だからそうなっちゃう。ある意味アメリカの必然の末路のようにも思えてくる。これを解った上でいろんなジャンルで繰り返しているのがアメリカぽい。

催涙スプレーも持てない
地獄の仕事です。これは。怖いとかのレベルじゃないし、喧嘩していても、止めない。放置。関わらない方がいい、と判断する刑務官たち。じゃあ、なんのために存在しているのだ? そう、放置する為に存在している。そこで死のうが怪我しようが知ったこっちゃない。ナイフが出てきても、見て見ぬふり。
真面目にやる気を出すと煙たがられる職場。ひどいったらありゃしない。でも、それを暴かれた後の言い訳や抵抗がこれまた痛烈で阿呆臭い。笑っちゃう。
点字書籍の職業技術
囚人には色々な事をやらせる。昔は炭鉱掘ったりとかね。最近でも「点字書籍」を作っている。
こういうのをやらせることにより、社会復帰した時に「目の不自由な人」の為の書籍を作れる能力を培う、という素晴らしい考えだ。
それは悪くない。
だが。だ。
だが。
点字書籍の95%は、刑務所で作られているらしい。
ということはだ。出所しても「それが仕事として活躍させられる技術ではない」という事。だって、刑務所で大半が作られちゃってるのだから。
このような可愛らしい主客転倒はまだいい方で。もっともっとハチャメチャが炸裂しているのが、この中身。トランプ元大統領の思惑や意向に沿ってまた振り回される事なども含め、アメリカって国の多様性と「懲りない面々」は笑えるレベルです。対岸の火事として見ればね。
しっかし、よくバレずに全うできたもんだよ、
バウワーお疲れ様!
アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス [ シェーン・バウアー ] 価格:2,310円 | ![]() |
