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体内に精子があったという事実はない。

11/25は憂国忌です。ずっと、「そう思わされてきた」風説の流布に、切腹自殺した三島の精子が介錯した森田必勝の体内から出てきたというのがあるが、これは最近デマゴギーであることを知った。

憂国忌

三島由紀夫が他界して50年。僕は高円寺の中野区大和町に住んでいた小学生低学年の頃。親が新聞の一面をこたつの上に広げて、僕と弟がそのこたつで「ミリンダ」を飲む姿をカメラに収めた。その一面が「三島、割腹自殺」。

その時ではなく、のちに、その写真を見て、三島の自害を知る。小学校の頃から小説を読むのが好きだったので、当然三島も通過する。そして大きな衝撃を受けるも、その人物像にも興味が及び、三島フリークと化しかけた時期がある。化しかけた、というのは、他にも小説家の作品を沢山読んでいたからであって、三島オンリーに耽溺したワケではないので。

なので、当然ながら、三島については、死後詳しく知る事になる。

「メゾン一刻」の五代君の名言に、未亡人響子さんの亡き夫について「死人は無敵だ」というのがあって、その通りだなぁと思った記憶。とりわけ夭折した人は印象が悪くなりようはずがない。当時は、ジェームスディーンについてそう感じていたっけ。

三島もそうかと思いきや、そうでもない。自害には政府から「全く以てはた迷惑な話だ」と言われたり、実際に、市ヶ谷に乗り込まれた自衛隊の立場は?とか思えば、全面的に心酔できるものでもない。今も昔も。

それでもかっこいいと思うのは、氏の作品であり、思想であり、憧れが強い。だって、最近判った事だけど、彼がノーベル文学賞を獲らなかったのは「若いから」ってだけのようじゃないか。候補者を明かすってのも確か50年後だったよね。それが粋か否かはさておき。

映画「MISHIMA」

MISHIMAって映画があって、ポールシュレイダー監督で、原作は三島作品「金閣寺」「鏡子の家」「豊饒の海」を自決の日のフラッシュで串刺しにした構成で。

当然全部読んだ後に見た映画なので(1985年)、全てよく分かる。役者もみんなすごくてね。緒形拳が三島で、森田必勝が塩野谷正幸(流山児★事務所(!))。その盾の会の小賀正義を三上博史。

金閣寺パートの溝口を坂東八十助。このどもりが猛烈に見事でね。本当のドモリにしか見えない。映画って俳優の力を存分に引き出すフィールドだよね。柏木が佐藤浩市、遊女まり子が萬田久子(!)。この「金閣寺」だけでもこのメンバーでオリジナル「金閣寺」を見たい!そう思った人沢山いたんじゃないかなぁ。

といえば、鏡子の家も豊饒の海もそうだけど。

「鏡子の家」は、沢田研二、左幸子、烏丸せつ子、横尾忠則(!)、李礼仙、平田満。
「豊饒の海」は、永島敏行、池部良、勝野洋、根上淳、誠直也。

レンタルビデオでも見つからず、海賊版を借りた覚えがある。ノーカット版ではなかったけど、ジュリーと烏丸せつ子の性器丸出しに興奮するより先に、坂東八十助の演技にシビれていたけどね。

不道徳教育講座

僕が好きなのに、小説とは別に「不道徳教育講座」ってのがある。そういうタイトルで「不道徳を勧める形を借りた」「エッセイ」なのだけれど、一行一行、圧倒される。

  1. 殺っちゃえ!と叫ぶべし
  2. 教師を内心バカにすべし
  3. 約束を守るなかれ
  4. スープは音をたてて吸うべし
  5. ケチをモットーにすべし
  6. 女には暴力を用いるべし
  7. 公約を履行するなかれ
  8. 人の失敗を笑うべし

ひどいでしょ。タイトルからしてね。中でも好きなのは「人の恩は忘れるべし」という章で。

私は猫が大好きです。理由は猫というヤツが、実に淡々たるエゴイストで、忘恩の徒であるからで、しかも猫は概して忘恩の徒であるにとどまり、悪質な人間のように、恩を仇で返すことなどはありません。

不道徳教育講座(三島由紀夫)

で始まり、三島節が展開していく。

角川文庫で出ているので、良かったら読んでみてね。小説は、もはやエンタメ小説しか読めない少年少女が多そうだから、敷居を高く感じてしまうかもしれないけど(それでも読むべきだけどね)、これなら読みやすい。岡本太郎の「太郎に訊け!」シリーズと共にトイレに置いてある。トイレにあるってのはうちではとても良いことで、読み返す本ということですな。それ以外は捨てるか売るかしちゃうからね。それが面倒だからKindleばかり買ってる最近だしね。

精子はなかった

で、話を戻して、自決の後、解剖したら森田必勝の体の中には三島の精子があった、とか言われていたが、どうやらこれはデマらしい。なんとも世の中ってヤツは。

その頃は「ネットのリテラシーを」なんて時代じゃないので(そもそもインターネットさえない)、真に受けてしまっていたよ。変な噂を流すヤツがいるもんなのだな。百害あって一利なしだぜ。

大学生の時にそれを演劇サークルの後輩から聞かされて、大ショックを感じながら、それでも「でも、おかしくね?」と思ったものだ。

だって、自決の日の朝に「性交」したってことか?とか。前の晩のがそのまま残っていたってことか?とか色々。

本当に不愉快な嘘だね。

だが、森田必勝の人生を繙くと、宗教がかかった由縁を感じる部分もあり、三島とは割れ鍋と綴じ蓋のような関係だったようにも思える。

コンプレックス

神様は男と女を敢えて作ったのは、モテたい!から頑張る!という競争社会を作り繁栄させる為だったそうな。

確かにモテたいからロックンロールを始めた人も、お笑い芸人を始めた人も、政治家になりたい人も、サッカー選手になりたい人も、プロ野球選手になりたい人もいるだろう。

つまり、モテないから、自分に自信が持てないから「頑張る」ワケで、それがとても重要。学校時代にモテモテだった同級生って、意外と地味な人生だったりするよね(偏見)。

三島も、美に対する意識が強く、身長163センチに対するコンプレックスも大きいものだったようす。一番は、「戦争に行けなかった」事に対する後ろめたさが激しい。自決は、英霊への思いもあるような気さえする。

有名芸能人のお笑いタレントが不必要に体を鍛えて無駄に筋骨隆々になって世の中をげんなりさせているけれど、三島のコンプレックスと似てるよね。文学賞をどれだけとっても評価されても、自分では納得いかないものがある。手に入らないものが欲しい。子供の頃の強いコンプレックスをなんとか克服したいという気持ちが最後まで尾を引いている。

ホイチョイの「見栄講座」もモテない馬場さんだから生まれた名作だしね。

憂国忌の中継

第50回の憂国忌は11/25の午後から中継される。チャンネル桜という所。

精子はなかったのは解ったけど、介錯する側の森田必勝が力一杯、刀を振り下ろす事ができずに、何度も何度も三島の後頭部に刃を当てたというのが本当なのかどうかは、未だに解らない。

最期

ご存じの通り、三島の介錯をした森田は直後に切腹をして、その介錯は、古賀がした。一太刀で。だが、この古賀という男は、三島の介錯もしているらしい。

どういうことか?

まず、三島が演説をして切腹する。そして森田が介錯をする、後ろから刀で斬りつける。二度振り下ろしても三島の息の根が止まらない。

古賀と小賀が、「森田さん、とどめを!」「もう一太刀!」と声をかけたが、三太刀おろしてもダメで、「浩ちゃん、頼む!」と古賀に刀を渡して、古賀が最期の介錯をしたらしい。なので、三島も森田必勝も、どちらも介錯は古賀、ということになる。ちなみに、古賀の介錯は見事で、古式に則り、首の皮一枚を残す形での介錯だったそうな。

この話を知らない人の為にあえてことわっておくと、三島は森田に「君は(切腹を)するな!」と止めている。巻き込んだのではないのだ。それどころか、説によれば、森田が三島をたきつけたような話もある。

今日にかけて
かねて誓ひし
我が胸の
思ひを知るは
野分のみかは
— 森田必勝

これが森田必勝の辞世の句。自決の日の数日前、東京は台風(野分)に見舞われた。

自決の日、森田は古賀に電話で起こして貰って、三島の家に集まり、古賀と小賀の4人で市ヶ谷へ向かう。三島は言う。「あと三時間ぐらいで死んでるとは考えられんなぁ」


今でも、市ヶ谷のあの前を通ると「嗚呼、ここで」という思いに駆られる。この靖国通りを「まだ早い」と2周ぐらい回ったのか、あの4人が、・・・とヒリヒリする。

ちなみに、4人が乗って市ヶ谷に突っ込んだ車は当時のトヨタの新型ではなく旧式「コロナ」らしい。
50回目の憂国忌はまもなく。

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作成者: 宮川賢

何しろ、インプットを多くしないとアウトプットばかりだと枯渇しちゃうし、ヤバいのでまずは読書を。そのためにソロキャンプや旅行や仕事も頑張らないとなりません。なーむー。