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RIP出口典雄さん

シェイクスピア・シアターの出口サンがお亡くなりになった。ふと功績を思い出す。

全作品上演の快挙

シェイクスピア作品(確か37ぐらいだったかと)の全てを「1人の演出家」で上演した世界初の人。その後も出てきていないのではないだろうか? そして、十二夜からスタートしたこの取り組みは、普段着でシェイクスピアを上演する見やすいとっつきやすい世界を考慮した演出で、とても有り難かった。

芸術と娯楽

芸術というのは、娯楽を作る側からしてみるととても厄介なカテゴリーで、単純に愉しみづらくなる。

芸術と判断されると(とりわけ賞とか受賞しちゃうと)、演劇の場合は特に、「高尚な」芸術に分類されたりしてね。

僕は個人的に、シェイクスピアは「エンタメ」なのだ、と教え直してくれたのは、小田島先生だと思っている。

しょうもないダジャレ、言葉遊び、その軽さはとても興味深いし、ちゃんと軽演劇人が演じれば声を出して笑えるもので。

でも、いい声の役者が朗々と演じると「滑った」とも見えず、「そういうもの」として受け入れるしかない。

勿論名台詞やキュンとする恋路など沢山「軽くもない」部分があるのだけれど、そっちを中心に配役してるから、どうもカタッ苦しい印象にされがち。

いろんな団体が壊してわかりやすくしようとしたが、それはあくまで「壊したから」であって、元々「おもしろ」なものであったとは認識されない。

モリエールも同じ

モリエールも同じでね。この人、出たがりの喜劇俳優なので、自分のやりたい台詞を自分で書いてる。長台詞はダーッと早口でまくし立てる極めて喜劇的な台詞も多いのだけれど、それを翻訳して演じる時は「もたもた」してて、見てられない。

自分でやろうと試みた時もあったけど、それを一部の劇団員に提案して進みかけた事もあったけど、戯曲を選ばせたりしたこともあったけど、それでも、色々な事情でやらなくなった。少しだけ残念。

サム・シェパード

不思議なもので、サム・シェパードは、「埋められた子供」で劇作家としての方が魅力的と思えるし、自分でもアイデンティティを作家としているが、俳優として認知している人の方が多い。

なのに、モリエールは劇作家としてしか見られていない。どぼじで?

ご冥福をお祈りします

シェイクスピアシアターの役者さんとは沢山知り合いになれた。19歳の時に演出してもらったこともあるし、声の大きさにビックリした覚えもある。声を出しているだけで演劇は気持ちいい。声を聞いているだけで演劇は気持ちいい。そんなシンプルな事を感じさせてもらえたのは、シェイクスピアシアターの皆さんのおかげです。

そもそも、シェイクスピアそのものが猛烈に魅力的な作品ばかりを作っているので、シアターの人たちは、とても楽しい演劇活動だったと思うよ。だって作家の遅筆にイライラすることもなければ、次の作品はどんなんだろう?とモヤモヤすることもない。自分の出番はあるだろうか? と思う必要もなければ、当て書きされて「そんな風に思われているのかぁ」と不思議な感覚に陥る事もない。

どれも名作なので、二回ずつぐらいやりたいと思う筈。シェイクスピアは18歳の頃に27歳ぐらいの女性に誑かされていた時期がある。そのエピソードは当時年上女性へのイメージを一掃した記憶。

龍馬がここまで日本で愛されるようになったのは間違いなく司馬遼太郎先生の影響だけど、シェイクスピアが今なお愛され続けるのは僕は小田島雄志先生の影響だと思ってる。そしてその魅力を、シェイクスピアシアターの役者さんたちが、十分過ぎるほど演劇人生で味わう事が出来たのは、間違いなく出口典雄サンのお陰だよね。

ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ

出口典雄の作品で僕が覚えているのは、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」です。そもそも、シェイクスピア作品以外も演出するんだぁ、というのもあったけど、こういう作品なので、納得。

「ハムレット」に小さい役でローゼンクランツとギルデンスターンという登場人物がいる。その2人にフォーカスを当てハムレットの裏側で、彼らにどういう物語があったのかを描く、とても面白い作品。喜劇だよね。

角野卓造と矢崎滋という名コンビ! こんな贅沢な配役で見られるなんて、当時の観客は幸せです。

しかも、この2人「バカ」だからね。そして、そのハムレット中での運命(死ぬ)というのは変わらないまま、2人は自らが置かれた状況を理解しておらず、無意味とも思える会話に終始している。「ゴドーを待ちながら」のような不条理喜劇として見る向きもある。

僕は、宮沢さんが「砂漠監視隊」をモチーフにした作品をラジカルガジベリビンバシステムでも、遊園地再生事業団でも上演したけれど(自分も出たけど)、それぞれは、ゴドーとこの作品を思いだす。

ご冥福をお祈りします

考えれば、37作品を上演し終えた時点で、プツンと糸が切れなかったのが不思議なぐらいの充実ぶり。

出口典雄のブログはまだネットにあるので、有り難い。そのまま残ってたらいいなぁと思う。氏は脳梗塞で倒れた時に、夏の夜の夢の台詞を思い浮かべたらしい。同じような体験があったとな。

暗い夜は人の目からその働きを奪いとる、
でもそのかわりに耳の働きを鋭敏にしてくれる。
見る力をとりあげておいて、
そのぶんだけ、聞く力を二倍にしてくれるというわけ

心よりご冥福をお祈りします。


出口典雄のブログはこちら


紅テントの佐野史郎は実はシェイクスピアシアター出身でもある。
そして吉田鋼太郎サンはガッツリ、出身者。

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作成者: 宮川賢

何しろ、インプットを多くしないとアウトプットばかりだと枯渇しちゃうし、ヤバいのでまずは読書を。そのためにソロキャンプや旅行や仕事も頑張らないとなりません。なーむー。