周庭氏が逮捕された。ついに。自由を奪う逮捕。シンボルの牙を折る事で香港の人のハートを一網打尽に制しようという2020年とは思えない事態。
周庭氏逮捕
「学民の女神」と言われた自由活動家の周庭氏が逮捕された。中国という国は、本当に何も変わっていないようにも思える。とても残念。
同時に僕が読み終えたのは「ある奴隷少女に起こった出来事」というノンフィクションノベル。
ある奴隷少女に起こった出来事
1861年に初版。
1820年代のアメリカ、ノースカロライナ州。自分が奴隷とは知らず、幸せな幼年時代を送った美しい少女ハリエットは、優しい女主人の死去により、ある医師の奴隷となる。35歳年上のドクターに性的興味を抱かれ苦悩する少女は、とうとう前代未聞のある策略を思いつく。衝撃的すぎて歴史が封印した実在の少女の記録。
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1861年の本だが、白人により書かれた創作だと思われていた。それが、百年以上経って、研究家の調査の結果、「ハリエット・アン・ジェイコブズ」という実在の人物の描いた自伝だったことが判明。
判明したのは、なんと1987年! ああビックリ。
奴隷制度は「酷いねぇ」という単純なものではない
奴隷制は、黒人だけではなく、白人にとっても災いなのだ。それは白人の父親を残酷で好色にし、その息子を乱暴でみだらにし、それは娘を汚染し、妻をみじめにする。黒人に関しては、彼らの極度の苦しみ、人格破壊の深さを表現するには、わたしのペンの力は弱すぎる。
(本書)
性の奴隷でもある
まず、メイソン・ディクスン線で、南部と北部に分けられるアメリカの南部で奴隷制度があり、北部はそうでもない。
アフリカ系アメリカ人は奴隷となって、売買される。奴隷は生涯「主人の所有物」なのだ。そして、その奴隷の子供も同じく主人の所有物となる。
このぐらいは、歴史の教科書でも習うし、想像はつくよね。
だが、読まないと解らない事も沢山ある。
奴隷制度は、白人女性の精神をも破壊する。
どういうことか。女性の奴隷はお手伝いさんみたいなことをやるわけだが(といってもそんな生やさしいモノではないが)、6歳ぐらいになると「売られる」ので、いきなり働かされる。
で、女性として「成熟」していく課程を見つめるご主人様夫婦。夫は奴隷をセックスの対象として弄び始める。奴隷を妊娠させても何も罪に問われない。これが横行する。
そうなると、男性は女子奴隷をヤリまくり、それに白人女性(女奴隷のいる家の奥様)は嫉妬し続ける、というワケ。だがそれだけでもない。
女性の嫉妬
そのご主人様(男性)に目を付けられて、セックスの対象として奴隷が見られている事に、奥様が「嫉妬」する。それは、女性の奴隷へ向けての嫌がらせやいじめ、鞭打ちなどドエライものがてんこ盛り。ああ、怖い。
百害あって一利なし。そんな制度(当たり前)。
主人公の気高い♥に救われる
これが「フィクショナル」に見えるのは、この主人公リンダが、気丈であり、正義感があり、ド根性だから。
つまり、日本で言う所の「昭和の物語の主人公のステロタイプ(つまり実在感薄)なのね。それが故に、「どうせ作り物でしょ?」の期間が長かったのではないだろうか。それぐらいよく出来ている。
よく出来ている、というのは、
「よくもまぁ、こんなに酷い事が十重二十重と襲ってくるもんだなぁ」
という部分。つまり劇作家として穿つと、という嫌な目線の話ね。
そして、悪役がこれまた「ステロタイプ」で。本当に「童話」に出てくるようなタイプ。あー、でも、実際はそういう「根性悪い奴」がかつては平然と存在してたのかなぁ。
藤原正彦のお母さんでもある「藤原てい(つまり新田次郎の妻ね)」の「流れる星は生きている」でも悪役が、本当に解りやすいタイプの悪玉だったものなぁ。そんな性格悪い奴、実在するんかー?!ってなぐらい。
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昭和二十年八月九日、ソ連参戦の夜、満州新京の観象台官舎——。夫と引き裂かれた妻と愛児三人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた一人の女性の、苦難と愛情の厳粛な記録。戦後空前の大ベストセラーとなり、夫・新田次郎氏に作家として立つことを決心させた、壮絶なノンフィクション。
(流れる星は生きている/藤原てい)
リンダの決断
とはいえ、グロイ描写はまるでない。さすが気高い女性が描いた物語。史実を後世に伝えると考えれば、ある程度は赤裸々でもいいと思えるのだが、この人は敢えてそうしない。それもこの作者の強い個性。潔さ。
なので、安心して読み進められます。女性の読者がとても多いのも納得。女性は、この強さにシビれる事でしょう。こんな状況でも、こういう夢を思い、夢を実現するために、そんな努力をし続けられるとは?!と驚くと同時にとても励まされるに違いない。
そのリンダが主人から酷い嫌がらせを執拗なまでに受け続け、屈する以外に道はないのではないか?と思えるような状態で、
一つの選択をする。
それが激しくインパクトがある。それは、主人公の性格がしっかり読者に伝わった後だからこそ、我々は度肝を抜かれる。開いた口がふさがらなくなる。自分も顎が外れたのかと思った。
それは、「肉を切らせて骨を断つ」ような「引いて待つより打って出よ」のような、いや、そのどれも的を射ない。ともあれ、凄い決断なのだ。そして、奏功する要素もあるが、裏目る部分もある。本人も強い後悔に苛まれる事にも。詳しくは読んでみて貰いたい。
書き上げたということは「悲劇的結末」ではない?
経験した本人が書いた自伝だと解って読めば、つまり「主人公が途中で死ぬ」ということは絶対にない、ということが解るよね。それでいい。では、完全なるハッピーエンドといえるかというと、今なお続く
Black Lives Matter
にも通じる根深い問題を孕むだけに、この物語の結末を手拍子で喜べない。
読者よ、わたしの物語は自由で終わる。普通の物語のように、結婚が結末ではない。わたしと子どもたちはいまや自由なのだ! わたしたちは、北部の白人と同様に、奴隷所有者の力から自由である。それに、これはわたしの考えで、たいしたことだとは言えないけれど、わたしを取り巻く状況も、かなり向上している。わたしの人生の夢はまだ実現していない。わたしは今まだ、自分の家で子どもたちと一緒に座り、これを書いているのではない。
(本書)
周庭氏は逮捕された。だが、これで彼女が殺されるような事があれば、地球が黙っちゃいない。ということは、生きて自由を得られれば、周庭は、自由活動家として、後世に伝える為にペンを持つ事が出来るし、それは誰にも止められない。
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僕は、8/7のKindle版を予約して、届いてから読み始めた。僕のは新しいKindleなので、防水です。なので、風呂で読んでも平気だし、涙が垂れてもダイジョーブ。
タイトル | ある奴隷少女に起こった出来事 |
著者(翻訳) | ハリエット・アン・ジェイコブズ(堀越ゆき) |
出版社 | 新潮社 |
価格 | 693円(文庫) |