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150日免停まで

(#002)乗らないライダー

俺の名はどどんが。乗らないライダーだ。なぜ乗らないライダーなのかの説明をしよう。新車がもうすぐ納車されるんだ。ヤマハの渾身の一台。MT-09だ。八百五十シーシーの排気量ながら二百キログラムととても軽い。走行モードが三つあり、Aモード、スタンダード、Bモード。Aモードだと、スロットルをフルに回すと数秒でウィリーする軽快さだ。勿論僕は大型初心者なので、しばらくはBモードで行くつもりだった。すぐに乗れるのでは?と思っていたつい数日前まではね。今は、もはや「いつか乗れればいい」という程度の低い夢を追う立場となった。ふ。


その新車を契約したのは、発売日初日の四月十日だ。人気車なので、納車が遅い事は知らされていた。そこから四月、五月、六月と、毎日MTに乗れる事を夢みてわくわくしていた。バイク雑誌を買っては眺め、ユーチューブでインプレッションが出ては何度も見てはあれこれ考えていた。足先がつんつんライダーなのは仕方ない。立ちコケはしないだろうか。ちゃんと取り回しに苦労しないで乗れるのか、等々。
あまりにも早く乗りたい為に、待ちきれずにレンタルバイクで乗ってしまおうかとも思っては我慢し、また思っては我慢する日々。ああ、乗ってなれておいた方がいいんじゃないかなぁ。でも、自分のバイクでまたがった方が喜びはひとしおだろうしなぁ。でもなれていないと倒してしまうからもしれないから、それは悲しいなぁ。いや、でもレンタルバイクで借りたとしても倒してしまったらそっちの方が金がかかるじゃないか、とか。じゃあ、別の乗りやすそうなCB400スーパーフォアを借りるか、これなら安く借りられるぞ。いや、でもそれは意味がないじゃないか。別のバイクで慣れても仕方ないぞ。等々。
そんなMTを夢見続けていた中、いろいろ「そろそろバイク屋さんに連絡してみようかなぁ」と思っていたら携帯電話が鳴った。
「六月二十七日に納車になりました。金曜日にうちの店に着くので、ナンバープレートとか手配してお渡し出来るのはその翌週七月第一週になります」
おおおっ。感動しました。具体的に、ようやく乗れる日がハッキリしたのだから。
なのにっ! なのにっ! 先週の赤切符。マルセロの頭突きでの一発レッドも彼は悲しいだろう。ソングの肘鉄での一発レッド、あれも彼は悔しいだろう。しかし俺も悔しい。前歴二回なので百五十日免停が決定。しかもあと一点で免許取り消し。取り消しということは、全ての運転免許がなくなってしまうのだ。中型自動二輪も普通自動車も大型自動二輪も。つまりバイクも乗れず、車も乗れず、原チャリにも乗れないのだ。
僕はその翌日の土曜日にバイク屋さんに連絡しました。
「すいません、免停食らっちゃったんで、搬送してもらっていいですか?」
バイク屋さんは笑いながら「わかりましたー」と快諾してくれた。やれやれ。
今の俺は免停通知が届いていないのだから、「乗れる」といえば乗れる。しかし、乗れば、あと一点で免取。それだけは避けなければならない。なので、搬送してもらうことにしたのだ。何はともあれ免停が解除になるまでは乗ってはならない。自分にそう決めたのだ。意思が強いって。ふふ。そんなこたぁねぇよ。なぜって、意思が弱いから、前歴三回になりつつあるワケだからね。
いよいよ来週、新車のMT-09が家に搬送されてくる。俺がこれまで乗っていたバイクのスズキのグラストラッカーを下取りに出して交換だ。お金を払ってバイクを受け取る。しかし、路上には出せない。しかも、バイクの為に二週間に一度はエンジンをかけて暖機運転をする予定だ。乗らないのに、だ。ご近所の人が不思議に思うだろう。
「おっ、あそこの旦那さん、またバイク買ったみたいだね。おっ、エンジンかけた。これから出かけるのかな。え? 冬でもないのに暖機運転? なんだそりゃ。へんなの。あ、エンジン切った。え、乗らないの? でかけないの? あ、そのまま家に戻った。なんだ、そりゃっ?!」
いいじゃねぇか、それが俺のバイクとのつきあい方、要はツンデレだよ。
お前、俺がすぐにお前にまたがると思うなよ、そんじょそこらの安っぽい男じゃねぇぜ。俺は乗らないライダー。君を大事にしたいから、だからホテルにはしばらく誘わないのさ。わかるだろう?
来週、バイクが届く。だが、届くだけだ。

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