「トレバー・ノア生まれたことが犯罪?!」読後感サイコ~っ!

英治出版の「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?」(トレバー・ノア著/齋藤慎子訳)を読んで雨季の不機嫌がぶっ飛んだ。

ニューヨークタイムス2017ベストブック

NewYorkTimesの2017年ベストブックスといった惹句に影響は受けないけど、僕がこれを買って読むに至った理由はいくつかあって。

  • スタンダップコメディアンが大好き
  • アパルトヘイトについてどの程度踏み込んで記されているか知りたい
  • 梅雨で気分が塞いでた

てなワケ。結論を言うと大正解。こうして読書感想を書いてみようと思う程。

スタンダップコメディアンが大好き

レニー・ブルースという実在のコメディアンが大好きで、「レニー」という彼の事を描いた映画を観てから彼の本を見つければ買うようになった。といっても数冊しかない。
風刺、エロ、ポップカルチャー。全てを喋って笑いに変えたレニー・ブルース。「コック・サッカー」という単語をステージで話した事で公然わいせつで逮捕されるが弁護団が表現の自由を盾に対抗し無罪を勝ち取る。その後ステージには当局の監視がついた。こういうのは中学生の僕にはシビれるヒーロー。カーテンコール直後に手錠を掛けられ連行された状況劇場の唐十郎のよう。

偶発的な薬物摂取での死とされているが、風呂場で自分のイチモツを切って死んでたという説もある。ちなみに映画でレニーを演じたのはダスティン・ホフマン。

エディ・マーフィも面白かった。アカデミー賞授賞式で司会をしたエディは、「アイ・ジャス・ゴ~♪」を歌って首を振る物真似をした後に、目が不自由なスティービー・ワンダー本人に「よく見ろ!」と怒鳴る。場内爆笑。ブラックだから言いやすい。ユダヤだから言えるギャグ。そんなものを武器に虐げられて生まれた人は、コメディアンで成功した時に爆発する。

そういう意味でも、この若きトレバー・ノアもそうに違いない!という勘。

アパルトヘイトについてどの程度踏み込んで記されているか知りたい

最近は小説を読むにしても海外小説ばかりの僕。現実逃避させてくれるからね。知らない世界を知りたい。知らない価値観や風習。アパルトヘイトについてハッキリ記されている事が解っていただけに、スタンダップコメディアンがどの程度書くのかをどうしても知りたかった。

梅雨で気分が塞いでた

そして何より、気圧の変化でテンションが低く、アゲアゲになる本を選ぶとなるとやっぱりこれになった。

トレバー・ノア生まれたことが犯罪!?
Born a Crime(トレバー・ノア/齋藤慎子訳)英治出版

感想

人種差別に苦しむ中で元気に育った青年のサクセスストーリー的自伝などではなく、母へのラブレターであり、アパルトヘイト下で生きる家族のドキュメンタリーであり、コメディアンのエッセイでもあり、笑って感動させられる全方位型。ああどう言っても陳腐。読んだ者としては納得いく説明が難しい。道理で僕が読む前にチラと目にした読書感想もまるで的を射ていなかったワケだ。

背徳法

背徳法。
1927年。
欧州人と現地人のあいだにおける性行為およびその他の関連行為を禁止する法律。現地女性と性行為を持つ欧州男性、また、欧州女性と性行為を持つ現地男性は、違法行為の罪で、5年を上限とする禁固刑に処す。

これが「生まれたことが犯罪!?」というサブタイトルであり、「Born A Crime」という原題。どれだけ苦労したかを恨み節で綴るかと思えばまるでそんなことはなく、カラッと陽気に笑わせる。さすがスタンダップコメディアン。爽快。白人の父、黒人の母を持つトレバーはカラードとカテゴライズされる幼少期を過ごす。ネルソン・マンデラが釈放されても、ギクシャクしつつ権利を授かる黒人たち。

黒人の友達と一緒にいる方が楽しいトレバーだが、学校は「あなた、あんな人たちと仲良くしてちゃダメよ」と諫められる現実。
極貧の生活と母の愛とキリスト教への信仰心。

お涙頂戴に陥らず(ここ大事!)、楽しく頁をめくってしまう。母のキャラクターとトレバーの極めて普通でありながら素直な性格が心地よい。このギャップは凄い。

「火星の人」を思い出す。

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映画「オデッセイ」ってのはインターネット小説として有名になった「火星の人」が原作だが、この小説だと(映画ではそうではないらしいが)、火星にひとりぼっちになっちまった状況を笑い飛ばす主人公のキャラクターが出色。何しろ笑わされる。

ええと、どうしよう。水がないぞ。・・・そうか、よし。まず、水を作ろう!

であったり(笑)、

CDがあった。僕のテーマ曲を決めよう。だって、火星でひとりぼっち。帰れる保証はまるでない。でも僕は生きている。なんとか元気にしたいじゃないか。さあ、何にしよう。色んなCDがあるけど、やっぱり、「アローン・アゲイン」かなぁ。

といった具合。声出して笑っちゃった。

その「火星に一人で取り残された状況」から想像出来る不安とは逆をいく陽気な反応。そのギャップが、落差が、「トレバー・ノア生まれたことが犯罪!?」は似てる。

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青春小説

青春小説のような側面も僕は好きで。高橋三千綱「九月の空」や、恩田陸「夜のピクニック」のような大人になってから読んでもキュンときちゃう魅力がこの「トレバー・ノア生まれたことが犯罪!?」にもあって。

三部構成の第二部のいくつかの章、「思春期の、長く、ぎこちなく、ときに悲劇的で、いたたまれないことだらけの恋の教訓」シリーズが大好き。黒人でもなく、白人でもないカラードの青春。

母さんの名言

トレバーの母さんは名言の宝庫。

「自分の過去に学べばその過去のおかげで成長できる。人生には苦しい事が一杯あるけど、その苦しみで自分を研ぎ澄ませば良い。いつまでもこだわったり、恨んだりしたらダメなの」実際、かあさんは恨まなかった。少女時代の極貧生活にも、両親に見捨てられたことにも、かあさんが文句を言ったことは一度もない。

美人でイエス様を信奉するトレバー母は、とても強い女性。一人称は書き手のトレバーだが、トレバーはカラードであり、「複雑な立場」ではあるが、本人は何も悪い事をしていない。サブタイトル通り「生まれたことが犯罪!?」という具合。しかし、トレバー母は、「犯罪を犯している」。白人とセックスをして、トレバーを産んだのだ。それはそれは覚悟のセックスだし、意思がある。決意がある。強くなければ生きていけない。実際、もんのすごく強い魅力的な女性。だけどダメンズウォーカー(笑)。

父さんという立場

普通、子供というものは、両親の愛の証だけど、僕の場合は両親の犯罪行為の証だった。オヤジと一緒にいられるのは家の中だけ。家を出たら、オヤジは僕たちとは通りの反対側を歩かなければならなかった。

幼少期のトレバーは、それが当たり前だと思っているから、悲しいとは感じていない。ここから少しずつ事態を理解していく過程が苦しい。

公園ではかなり離れて歩くようにしていたんだけど、僕がオヤジのあとを追いかけながら、大声で呼び始めたそうだ。「パパ!パパ!パパ!」みんなが注目する。パニックになって逃げるオヤジ。遊びと思った僕は、オヤジをずっとおいかけていたらしい。

悲しいよね。

スタンダップコメディアンになる前の子供

さすがトレバーは子供の頃から面白い。カトリック教徒を斜めの目線で見てる。

司祭と言い争うトレバー。
「カトリック教徒だけが、イエス様の肉体を食べ、血を飲む事が許される、そうですね?」
「そうです」
「だけど、イエス様はカトリックではなく、ユダヤだったんですよね」
「まあそうです」
「ということは、たった今、イエス様がこの教会に入ってこられても、イエス様には聖体拝領が許されない、ということですか?」
「それは・・・うーん。その・・・」

ドイツとの違い

ドイツの子供たちは、ホロコーストのことを必ず教わる。それにより、ドイツ人はこの問題をちゃんと認識し、申し訳なく思うようになる。
だが、南アフリカで、アパルトヘイトの極悪非道さを教わる事はない。

奴隷制度がありました。それから黒人隔離政策。それからマーティン・ルーサー・キング牧師の登場と暗殺。でも、もう済んだ事です」

これは、日本の僕らにも、胸が痛い部分がある。

シンボルとしてのマクドナルド

マンデラの釈放で自由がもたらされ、自由のおかげでマクドナルドがやってきた。~(略)~
マクドナルドは僕にとって、まさにアメリカの味だった。アメリカそのものだ。最初の一口で大興奮だ。思っていた以上においしい。半分ほど食べたところで、それほどじゃないな、と気付く。さらに2、3口食べると、・・・うーん、これってどうなのかな・・・と思い始める。でも食べてしまうと、また無性に食べたくなって、結局また食べにくるのだ。

毛虫を食べて数ヶ月を過ごす生活を送るトレバーはマクドナルドに歓喜。

日本にも言及

アパルトヘイト体制は細かいところまで複雑に練り上げられていたにも関わらず、中国人をどう扱えばいいかわからなかったのだ。そこで、政府はこうすることにした。「えっと、中国人は黒人ということにしておこう。そのほうがわかりやすい」
 おもしろいのは日本人は白人とみなされていたことだ。自分が南アフリカの警官になったところを想像すると笑える。
「おい、そのベンチに座るんじゃない、この中国人め!」
「あのう、わたしは日本人ですが」
「や、これはどうも失礼しました。あなたを人種差別するつもりはなかったのです。それでは、どうもごきげんよう」

ドラマ

エイブルという継父がいる。短気でいいキャラクター。だが、実在の人物。たちが悪い。BMWを持っているが、ダンスパーティで女子をエスコートする為に貸してくれると言っていたのに、当日になると酔っ払っていて「ダメだ」とけんもほろろ。マツダで美女を迎えに行く事になるトレバー。そんな可愛いわがままぐらいならいいが、このエイブルという男はトレバーとトレバー母に最後までつきまとう。

物語としてみるともんのすごいいいキャラクター。ゴッドファーザーで言うならジェームズ・カーン扮する血気盛んな長男。これまた実話がモデルで当事者が執筆した事でも話題で迫力満点の「熊と踊れ(上・下)」(アンデシュ・ルースルンド 、ステファントゥンベリ/ハヤカワ文庫)の短気で暴力的なオヤジとそっくり。ステロタイプは名脇役。

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まとめ

筆致から伝わる母への愛、そして母のトレバーへの愛。マザコンを恥じる事なく連綿と綴る母へのラブレター。全てが、素直になることの魅力を再確認させてくれる。
何より、洒落てるんだよね。

唯一の欠点というか、気にくわない所がある。
腰巻きで茂木健一郎が推薦文を寄せている事だ。あの人が推してるからって、あの人がなんかコメントしてるからって、ガッカリしないで欲しい。俺もガッカリした。

だが、考えてみてくれ。日本でトレバー・ノアって言って知ってる人いるかい? この本を通じてでないと大抵の人は知らないよね。それなのに、訳して売ろうと出版社が思うってことは、それぐらい「読んで欲しい」って事だよね。
ありがとう、トレバー。そしてトレバー母。

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投稿者:

Miyacolor

まぁ、なんとなく楽しく生きていますよ。それで十分でありながら、それでいいのか?って自問自答する日々ですかね。